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■建設コストについての考え方  2011.01.14改稿

 一般的にローコストといわれる住宅の多くは,低価格ではあるが低品質の場合が多い。では何をもって低品質かというのは、一言で言えるほど簡単では無いが、低価格で低品質は高価格で高品質と同じであり、この比例ライン上にあるローコスト住宅は安いだけであまり価値が見いだせないと私は考えている。

 もちろん高品質な住宅は高価な場合が多いが、高価であるからと言って高品質とは限らない。低価格でありながら高品質そしてデザインまで良ければ言うことナシ、という方向がベストだが、これが相当難しい。高品質にするには良い職人さんを、高性能にするには良い材料を使わねばならない。どちらもレベルを上げるほど価格が上がっていくので単純に良い建物をつくろうとすると、当たり前だが高価なモノになってしまう。

 間取り(プランニング)も影響がある。複雑な間取りはそれだけ材料が増える上に手間もかかるので同じ床面積でも単価は全く違ってくる。単純な間取りの中で求められたモノをいかにセンス良く組込み昇華させることができるかがローコスト住宅を造る場合において設計者の腕の見せ所だろう。

 材料に関しては、低価格でありながら高品質を保つようなコストパフォーマンスの高い材料を適材適所に使用することで全体としてのコストパフォーマンスをあげるよう工夫している。

 問題は人件費だが、何度か私の設計した建物を施工したことのある建設会社や工務店や大工さんの中から腕の良かったところで、協力していただける範囲で見積合わせを行っている。もちろんクライアント様自身で探してきていただいた施工会社でも全くかまわないが、初めてお付き合いする施工会社は経営状況と施工レベルをこちらで判断させていただき、お断りする場合もあるので、そこのとは念頭に置いていただければと思っている。

 極端なローコスト化は誰も望まない結果を生む可能性が高い。どこよりも安い施工費でも下請けや職人達が泣いていては意味がない。誰かの幸せの為に誰かを犠牲にするという考え方には納得できないし、そうやって手に入れた家は住む人を本当に幸せに出来るのかどうか、そこに疑問を感じない人が幸せになれるかどうか疑問だからだ。今はあらゆるビジネスにおいて何でも少しでも安い方が良いという消費者心理が大小問わずワーキングプアや消費者本人の所得の抑制につながっているように思う。

 自分のプロジェクトは、クライアント様本人、携わる施工会社、現場監督や職人達、そして設計者である私含めみんなが幸せになれる様なバランスのプロジェクトにしたいと願っている。なぜなら全ての人々に幸せになる権利があり、極端なローコスト化は誰も(長い目で見ればクライアント本人も)幸せにしないのではと思っているからだ。それは何か不具合があった場合、ローコストであったことを理由に納得するクライアントなど一人もいないという現実から見ても明らかではないだろうか。

■ コスト対策のポイントと問題点

 ローコスト化を進めるにあたっての一番のポイントは、設計に対しての考え方が非常に重要になってきます。これは設計一般論でなく私の考えというか気持ちなのですが、建築というのは
人の気持ちや考え方、流行や好みの変化のスピードと比較した場合、かなり長期間同じ姿で存在するモノです。10年前の自分の建築やインテリアに対する好みを改めて思い返して下さい。
今と同じですか?それとも違いますか?

 住宅以外の建築物のほとんどは不特定多数の人々が特定の目的に使うモノばかりです。そういった建物は目的がハッキリしているので費用対効果も明確です。しかし住宅は特定の人(家族)が多様な目的の為に使うモノなので、費用対効果が非常に見えづらくなっています。ましてや特定の目的に特化したりデザインの方向性を特化した場合、住む人の気持ちの耐用年数の短縮が懸念されます。

 多くの場合、一生に一度建てるという設定のもとに住宅を検討されていると思います。そういった状況の中でライフスタイルの変化をいかに吸収できるかが住宅を長寿命で使用するポイントだと考えています。上質な住宅を造り、具体的な耐用年数のみでなく、気持ちよく暮らせるという耐用年数においても長寿命とする事が、本来の意味でのローコスト化であると思います。しかし、だいたいにおいてランニングコストをローコスト化する場合は建設費は増加します。しかし現金で建てる場合を除いて、毎月の住宅ローンに対する支払金額が重要ですので一概に初期費用ルを下げることが良いとは限りません。

 主役は家族、建築は黒子であるというのが私のスタンスです。別の言い方をすれば、建築家の住宅における仕事は初めての逆上がりを補助ように初めて住宅を建てるクライアントをサポートする役目みたいな感じでしょうか。そういったことを実現するためには、建物が一番輝くピークを完成時に持って来るのではなく、10年、20年後くらいに2つのピークが来るようなコンセプト作りが必要です。家族と一緒に歳を重ねていく感じであればベストです。経年変化10年後をピークに設定する場合、材料の設定や間取りの構成、上質で主張しすぎない空間が必要です。

 そういった考えを元に改めて住宅というモノを考えると、どうしても必要な材料や広さがあります。間取りに限らず、例えば模様替えの際に住み手の自由な発想がコンセントやTVジャックに左右されないようにしておかなくてはなりません。それらが住宅における最低条件だと考えています。

 コストに対して挑戦し続けてわかったことは、これは非常に難しい課題だと言うことです。もともと単純に安くするだけが目的なら、設計料がかかる以上設計事務所には頼まない方が良いのです。ローコスト住宅を設計事務所が手掛ける場合、そういう自己矛盾を含みます。それをふまえた上でローコスト意味を問わなくては設計事務所の存在価値がありません。10年、20年後に「空間設計室に頼んで良かった。」と言われるような仕事をすることが、私の住宅に対する基本姿勢であり、コスト対策もその一部であるということが、独立してから一貫している明確なポイントです。

 コスト対策の問題点とは、それも必要諸条件の一つであり、ローコスト化がクライアントにとって必ずしもベストな解答ではない可能性があり、そういったケースとどう向かい合っていくかが
今後の課題であり、クライアント本人にも考えてほしいポイントです。例えば費用的に問題があった場合は今はまだ建てないという選択をされることもアリではないかと思います。

 基本的には、要求と希望と私の考えを全て満たしたプランを一度作成し、金額のバランスを見ながら内容に優先順位をつけ調整して実行可能な金額に落としていくという進め方をして
いきます。

■性能&品質/面積/コスト相関図

cosuto.jpg左記相関図が性能・面積・コストの相関図です。
全ての建物に3つのポイントがあって、それは「性能(品質)」・「コスト」・「面積」です。

 まず各ポイントの説明をします。
1.「性能(品質)」
高気密高断熱や自然素材の使用による室内環境、床暖房などの部分です。いわゆる夏涼しくて冬暖かく、便利でメンテナンスフリーを目指すことはここのレベルを上げていくことになります。(品質)となっているのは、性能は材料の品質や施工の良否に影響されるからです。

2.「コスト」
ここでは単純に建設費などかかる費用を指しています。内訳は単純に言うと、材料費・人件費・諸経費です。材料費は言わなくてもわかると思います。人件費とは単純に職人への報酬という面だけでなく、職人の腕前のバロメーターでもあります。新人だったり、腕が良くない場合は安い傾向があり、腕に自信のある職人は自分を安売りしない傾向があります。諸経費含め、規格住宅では徹底的に無駄を省き、特に人件費と諸経費を削減していますが、注文住宅では極端な削減はなかなか難しいのが現状です。

3.「面積」
ここも単純に床面積を指しますが、法的な床面積ではなく、実際に費用のかかる施工床面積ともいう部分を指します。テラスや吹抜・ロフト・バルコニーなども≒1/2をかけて法床面積に足すと、実際の施工費がわかりやすいでしょう。

家造りのバランス
 相関図を見てください。ポイントのまわりに楕円が書いてありますが1つの楕円は2つのポイントしか囲んでいません。
例えば夏涼しく冬暖かい(性能・品質)ローコスト(コスト)住宅が希望だとします。この場合断熱性能や温熱環境を良くするために性能の良い材料で精度のある工事をしなくてはならないので性能・品質を絶対条件とした場合は材料費&工賃のUPは避けられません。高気密高断熱の坪単価が安くないことがよい例です。この場合で工事を予算内に納めるには単価が下がらない以上、建物の規模(面積)を小さくする必要があります。実際には面積を小さくしても最低必要設備や工事期間はあまり変わらないので、ますます単価は上がります。
 別の例として家族の人数が多く2世帯住宅などで必要諸室の数と最低面積が減らせない場合などで予算(コスト)が無い場合は坪単価を下げる必要があるのでペアガラスや床暖房などいわゆる仕様変更(性能)を落とす必要があります。あるいは建物形状シンプルにして表面積を減らすのも効果的です。吹き抜けやバルコニーなどは面積には入りませんが総工費を押し上げる要因となります。いくら性能を落とすといってもさすがにガラスがシングルだと夏涼しいのは確保できても冬暖かいという性能は満足できない可能性があります。

 まとめると、床面積を確保するのなら単価を下げる必要があるので性能や品質を犠牲にする必要があり、性能・品質を確保するのなら単価が下がらないので床面積を小さくする必要があるということです。性能を落とさずに床面積も広く取りたいのであれば、ある程度の予算を確保する必要があるとも言えます。それらのバランスを考慮した最近の当社の施工坪単価は35坪の住宅で70~80万/坪です。

 3つの楕円の交わる中心部分「性能」「コスト」「面積」のバランスのとれた住宅を目指している現時点での結果が、今のところこの単価です。具体的に見て感じていただかないと、このバランスは解りにくいかもしれません。ただ私の設計は中心に近い位置にあるモノだと自負しております。

 これから住宅を建てられる方は、どちらの方向から中心を目指すのか、そのスタートラインだけは明確にされることをお勧めします。あくまでも妥協ではなく、条件の順位なのだということを
付け加えておきます。それとセンスの部分はこの相関関係に含まれません。奇抜な形態を求められるとコストとリンクしてしまいますが、建築においては逆にコストを抑えたところをセンスによってカバーする事もできると考えております。その辺が設計者の腕の見せ所だとも考えております。